ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

 日本版リメイク「ヘブンズ・ドア」の公開にあわせてドイツ製のオリジナル版が放映されたので視聴。さすが抜け目ないなフジ。

 脳腫瘍と骨肉腫、それぞれに不治の病を抱えて余命いくばくもないふたりの男が病院で意気投合し、ひとりが「まだ海を見たことないんだ」ともらしたのをきっかけに無断借用した車で海を目指して旅立つ。途中、なりゆきで銀行強盗を働いたり盗んだ車のトランクに大金が隠されていたりで、警察だけでなくギャングからも追われる羽目になったふたりは大騒動を巻き起こしつつ、目的地へとひた走る…。

 日本公開からもう10年経つんですね。ひさびさに再見しましたが、90分足らずの長さで「アレ?こんな短い映画だったっけ?」と思ってしまいました。

 カーチェイスや銃撃戦などの派手な見せ場を盛り込みながら、思わぬ大金を手にした主人公ふたりがひたすら自分の夢や願いごとをかなえてゆく姿が痛快に描かれていて、妙な道徳主義や安易な泣かせに走っていないのところがいいです。特にマジメなほうの男(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)の「美女ふたりを相手に3Pする」というストレートすぎる願望をちゃんと描いてるのが偉い!リメイク版は未見ですが、福田麻由子ちゃんが「あたし死ぬ前にイケメンふたりと3Pしたいの!」とか言い出したら凄いんだけどな。
 それと一見コワモテだけど母親思いの相棒を演じたティル・シュヴァイガーがやっぱり素晴らしいです。警察に包囲されて絶対絶命の状況下で、彼が思わぬ告白をするシーンはおかしいけれど同時にもの悲しくもある名場面(この作品でモスクワ国際映画祭最優秀主演男優賞を受賞)。
 そのシュヴァイガーの役名が“マーティン・ブレスト”となっているのですが、これは「ビバリーヒルズ・コップ」や「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」のマーティン・ブレスト監督から取ったものらしいです。で、マーティン・ブレスト監督といえばロバート・デ・ニーロ主演でやはり男ふたりの珍道中を描いた傑作ロード・ムービー「ミッドナイト・ラン」。つまり「ノッキン・オン〜」はこの映画へのオマージュなんですね。

 このことに限らず、エルヴィス・プレスリーやキャディラック、高級ホテルの屋上にそびえる巨大なコカ・コーラの看板など、この映画では随所にアメリカ文化への強い思い入れのようなものが感じられます(その極めつけがハリウッドでも活躍した某大物俳優のゲスト出演)。

 普通ヨーロッパ映画が米国発の文化を扱うときって、グローバリズムと絡めて批判的だったり皮肉っぽく扱われることが多いような気がするんですが、この映画ではもっと純真で素朴にあこがれてる感じ。このへんの感覚は、やっぱり米ソによる東西分割という戦後ドイツ特有の歴史のあれこれ(例えばベルリン空輸とか)が関係しているのかしら…と思いながら見ていました。

 さて、タクシードライバーをしながらこの映画の脚本を書き、監督も手がけたトーマス・ヤーンは現在もテレビや劇場用映画で活躍しており、ティル・シュヴァイガーはハリウッド映画に招かれたり監督業に進出したりと才人ぶりを発揮しているのですが、では彼らが目標としたマーティン・ブレストはどうなったかというと、2003年に撮ったジェニファー・ロペスベン・アフレック主演のロマンティック・コメディ「ジーリ」が見事ラジー賞で5部門受賞という快挙を達成し、それまで築いたキャリアをすべて棒に振りましたとさ!

ジーリ [DVD]

ジーリ [DVD]