インセプション

7/20追記・以下の感想を書いたあとで、さらに考えたことについて追加のエントリを書きました。そちらも併せてお読みください。


まず最初に言っておくと、この映画のアイディアとビジュアルは大変に素晴らしい!
テレビをつけっぱなしにして寝ていると聞こえてくる音が夢の内容に影響したり、ものすごい長い夢を見ているつもりが実はほんの数分寝落ちしているだけだったという、誰にもありそうな経験を巧みに作品世界内のルールに織り込みつつ、さらに普通の人なら思いついてもまずやらないような奇想天外なヴィジョンを、ものすごく大真面目に手間をかけて映像化している。これは凄いです。クライマックスの(文字通りの意味での)三段落ちも見事。

しかもそこに、他人の夢に潜入してアイディアを盗んだり、またはある考えを植えつけ(インセプション)るプロの犯罪者集団という、一種の強奪映画の要素を加えることによって、よりスリリングな物語になるはずだったのですが…。

実は、自分はその犯罪劇としての部分に大きな疑問を感じて、そのために映画の世界に完全に没入することができませんでした。

(以下、映画の内容に具体的に触れています)

ありていに言えば、ディカプリオ扮する主人公が、非合法かつ緻密な仕事を引き受けるトップクラスの職業犯罪者という設定にも関わらず、根本的にプロフェッショナルとして失格な人間だということ。夢の中で任務を妨害されるほどのトラウマを抱えてる(というか自分から維持してる)のに、そのリスクを放置したままさらに重要な仕事に挑んで大事な局面でまた妨害される展開は、正直見ていてちょっとイライラしました。なのに他人の失敗にはすぐ声を荒げるし…本当にこの人凄腕なのか? とにかく行動原理が自己中心的すぎて、そのくせ善人っぽく描かれるのがすごい違和感。相棒のジョゼフ・ゴードン=レヴィット(好演!)もおかげで冒頭で危険な目にあってるのに、よく忠実に働くなあ…と思いつつ見ていました。

クリストファー・ノーラン監督の前作「ダークナイト」はマイケル・マンの「ヒート」から影響を受けているとのことで、この「インセプション」でもいくつか参考にしていると思われる場面があるのですが、こと裏社会に生きるプロの非情さやストイシズムにはノーラン監督まったく興味がない模様。それが犯罪映画の重要な魅力のひとつなのにねえ。

あとこれはもう好みの問題だけど、主人公のトラウマの原因となったマリオン・コティヤール。自分は評判の悪かった「ダークナイト」のマギー・ギレンホールよりもこの人のほうがダメでした。生きてる間も死んでからもただのキが違った人で…でもこれはあれか、「叫」の葉月里緒奈と小西真奈美だと思えばいいのかしら…。

「これは犯罪映画そのものではない」と言われればそれまでかも知れませんが、ひとつの要素が上っ面を撫でているだけなのが透けて見えると、どんなに舞台装置が優れていても他も色あせて見える、と感じました。もう一回見たら違うものが見えるだろうか…。


とりあえずノーラン先生にはこのへんの映画を一万回くらい見て欲しい。

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ちょっとこの映画も思い出しました。ラストが好き。

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