カナザワ映画祭2010 世界怪談大会(その2)

呪われた夜から一夜明けた10月18日はいよいよ映画祭初日。朝からバスに乗ってメイン会場である金沢21世紀美術館に勇躍向かうも、いきなり整理券を取り忘れるという初歩的な失敗…さらにバス停から美術館に向かう方向が分からず、道端で仕事中の警備員さんに道を教えてもらってようやく目的地にたどり着く始末。
この件に限らず、金沢の人は総じてみな親切な人ばかりで、「内地の連中は人を取って喰う恐ろしいバケモノ」と思い込んでいた自分の偏見が恥ずかしい…誰ですか、「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師」とか言ったのは。*1

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そんなこんなで21世紀美術館。オサレ!しかも入館は無料!*2


地下にあるシアター21の受付で無事チケットを受け取り、夜のトークショーの整理券をゲットしてから最初の上映作の列に並ぶと、ここから12時間ノンストップの映画地獄が幕を開けたのです―――。

チャウ

巨大な人喰いイノシシが暴れ回る韓国製モンスターパニック大作。いまのところ未公開作品ということで、手作り字幕を投影しての上映。
正直、この内容で122分の上映時間は冗長すぎるのでは?という疑問を抱きつつ見始めたところ、第1の犠牲者の現場検証を行う警官たちが土手から何度も転げ落ちるあたりから様子がおかしくなってきて、ソウル警察から田舎に左遷された主人公とその認知症の母親がとんでもない不条理ギャグを飛ばしたところで、「あ、これ笑って見る映画なのか!」とようやく気づいた次第。
ロハスブームに乗って有機農園で村おこしを企む村長らが収穫祭を強行して犠牲者が出たり、夜空に流れ星が流れたりする人喰い映画の定石やパロディを交えつつ、基本的にはどこかピントのずれた登場人物たちのドタバタと、突発的にシュールなコントが挿入されるブラックな田舎コメディでした。
曲者ぞろいの出演者の中では、傲慢不遜な大物ハンティングの世界的名手と、純朴で不器用なボンクラ男の両面を演じ分けたユン・ジェムン(「グエムル」のホームレスのおっさんね)と、泥酔してカラオケで熱唱したり所構わずビデオを回し続ける天然系の動物学者をキュートに演じたチョン・ユミの2人がよかったです。特にチョン・ユミのキャラクターはルックス含めて「少年メリケンサック」の宮崎あおいを意識してると思うんだけど…(映画全体の雰囲気もなんとなくクドカンっぽい)。村を徘徊するキチガイ女役のコ・ソヒは「殺人の追憶」の婦警さんと同一人物とは思えないほどの怪演。
メインの巨大イノシシも結構派手に暴れまわってくれる一方で、あまりに登場人物のキャラが立ち過ぎたせいか[中盤からほとんど人が死なない]という致命的な弱点はあるものの、未公開にしておくにはもったいない拾い物。ちゃんとした字幕で再見したいので、せめてDVD出ないかしら。
あと、これが爆音上映というものの初体験だったのですが、意外にも聴きやすかったのがすごく驚き。

ゼイリブ

さすがはジョン・カーペンター作品、ここからグッと観客が増えて、列の中にはあの監督やあの監督など著名人の姿もちらほら。
この映画を見返すのは「日曜洋画劇場」以来だったけど、面白かったー!大画面と爆音で見るロディ・パイパーのかっこ良さ!路地裏で繰り出すプロレス技の迫力と、ラストのスネーク・プリスキンに匹敵する反逆のヒーローっぷりに大いに痺れる。そしてテーマが全然古びてないどころか、公開時より現代の世相に接近しているよ…。
基本的にこの映画祭で上映された洋画は、フィルムセンター所蔵の日本公開時のプリントそのままなので、字幕やフィルム状態もすごく雰囲気がありました。

巨大生物の島

バート・I・ゴードン監督お得意の巨大生物映画。いい具合に退色したプリントに加えて、ただの巨大ネズミをあくまで“ファング”と言い張る字幕が東宝東和テイスト満点。しかしどう見てもスタンダードサイズの低予算映画なのに、当時はこれを大作扱いでシネラマ上映したというのだから驚き。
で、肝心の本編ですが、爆音でネズミの鳴き声が響く中、撃ったり水に沈めたりと本物のネズミをバンバンぶち殺してるのを眺めていると、だんだん荒涼とした気分になってきました。

女優霊

本日の目玉。もうこの時点でかなり空腹でフラフラしていたのに、何かに取り憑かれたようになって列に並んでいました。
待望のフィルム上映、しかも爆音ということで(一部聞き取りにくいセリフはあったものの)シアター21が凍りつくかと思うほどの恐ろしさ…特にクライマックスの演出で、前夜に見た「シェラ・デ・コブレの幽霊」からの影響がはっきり確認できたのは収穫。小さなテレビ画面では見逃しがちなラストのアレも、大画面だとバッチリです。

クトゥルーの呼び声

ご存知ラヴクラフトの同名小説を、低予算を逆手に取って20年代風のサイレント仕立てで映画化。まあアクションシーンの演出が全然サイレント調じゃないとか、ニューオリンズクトゥルー教団がなぜか白人ばっかりとか言い出したらキリはないのですが、最後にちゃんとストップモーションアニメで動くクトゥルーが登場するのでだいたいのことは許します。ドイツ表現主義風のクトゥルー像はちょっと欲しいぞ。

邪願霊

これはずっと見たかった日本における心霊フェイクドキュメンタリーの嚆矢。黎明期の作品ということでいろいろと試行錯誤が見られ、正直いま見ると戸惑う部分が多い一方で逆にハッとさせられるところもあり、見終わったあとの不気味感はこれが一番でした。それにしても中盤の大掛かりな仕掛けや80年代バブル期の雰囲気満点のゲスト陣を見てると、現在とは“低予算”の意味合いがずいぶん違うなあとつくづく思う。クレジット後の水野晴郎閣下の出演シーンが上映されなかったのは残念。

ここで映画上映は一旦終了し、引き続き本日のメインイベント、「何かが空を飛んでいる」の稲生平太郎氏こと横山茂雄先生と高橋洋監督による「オカルト対談」トークショー。詳しい内容は来月号の映画秘宝に再録されるとのことでここでは割愛しますが、いきなり何の説明もなくインド/タミル映画「AMMAN」の冒頭10分が延々と流れるという凄い幕開け。


そのあと流されたクライマックスシーンにまた驚愕。

(ここではカットされていますが、この前に悪人がヒロインの家族にウルトラ暴力を振るう場面あり)

結局一日のプログラムが終わったのは夜の10時近く。朝からここまで休憩も食事もなし。ウワサに聞いた以上のカナザワ映画祭のハードさに完全に打ちのめされ、タクシーに乗って宿泊場所まで帰投。近所のガストでたっぷり飲食してから眠りに就こうとしたそのとき、

思いがけない人物からのメッセージが届いたのでした…。

(その3へつづく)

*1:あと、冬の海辺に首だけ出して人を埋めて、周囲をジープで走りまわる習慣もないそうです。ちょっとがっかり。

*2:有料スペースもあり。