カナザワ映画祭2010 世界怪談大会(その1)

無職で毎日暇なのをいいことに、去る9月17日から21日まで、4泊5日の日程で「カナザワ映画祭2010 世界怪談大会」へと参加してきました。

出発当日はあいにくの雨。しかも飛行機の予約の関係で中標津→千歳→小松と飛ぶ最短距離ではなく、中標津→千歳→羽田→小松という遠回りに。

実は飛行機に乗るのも北海道から出て内地へ渡るのも15年ぶり*1。そのころに比べれば、ネットで予約してバーコードひとつで搭乗手続きの完了する現在は夢のようですな。

中標津からは、このちっさいプロペラ機で飛びます。揺れたよー。

千歳行きのフライトは初めて乗ったけど、着陸するときにいちいち苫小牧沖の海上まで旋回するんですね。そのまま本州まで飛べばいいのに…と思いました。
千歳で昼食を取って、羽田の長い長い搭乗フロアを端から端まで踏破し、さらに小松空港行きのフライトが予定より30分以上遅れたため、現地に到着したのは夕方の5時近く*2
手荷物を受け取ってロビーへ出ると、今回招いていただいた金沢在住の映画ブロガー・ねここさん(仮名)が出迎えに来てくれていました。ちゃんと目印の玉置浩二青田典子が表紙のTVブロスを手に。

実はこの日、9月17日は映画祭の前夜祭として、あの“史上最高に怖い映画”こと「シェラ・デ・コブレの幽霊」が初の日本語字幕つきで屋外無料上映という見逃せないイベントが組まれていたのですが、金沢は朝から断続的に雨が降っていたためギリギリまで屋外での上映が危ぶまれていました。自分も朝からTwitterで現地組の人々からの天候報告を見ては手に汗握っていたところ、幸いなことに晴天に恵まれた模様。実際、自分も羽田からずっと機外の空模様を見ていたら、北アルプスから日本海側が厚い雲に覆われていたのに、なぜか金沢上空だけがぽっかりと晴れているという奇現象を目撃。
上映会場へと向かう前、ねここさんに連れて行ってもらった回転寿司の店で、普段北海道にはお目にかかれない魚をいただきながら「晴れてよかったねえ」という会話を交わしていたのですが、まさかそのあと、あのような恐ろしい出来事が起ころうとは……。

宿泊場所に荷物を置き、野外会場の本多の森公園に到着したのが上映開始の8時ちょっと前。無料ということもあってか、この時点で既に会場は人でいっぱい。そんな中、ねここさんに連れられるままに座った場所が高橋ヨシキ所長の真後ろでまず軽くビビる。
そうこうしている内に時間が来て、いよいよ幻の映画とご対面…と思いきや、始まらない。どうやら映写機の調子が悪いらしく、再三の上映時間繰り下げのアナウンスに、実況組によるTwitterのタイムラインでも「呪いか!?」の文字が踊り出す。
カナザワ映画祭オープニング「シェラ・デ・コブレの幽霊」の呪い - Togetter
やっと始まったと思ったら画面が裏返しだったり、それが直ったと思ったら音声だけが間延びして異様な音が聞こえたり、結局映写機交換という最後の手段を経てようやく上映が始まったのが、予定から1時間半後。途端にそれまでざわついていた会場がしんと静まり返り、周囲の森から虫の声だけが響く中、遂に伝説の「シェラ・デ・コブレの幽霊」を目撃したのでした。

シェラ・デ・コブレの幽霊

高名な建築家で古い建造物修復の専門家でもあるオライオン(マーティン・ランドー)は、建物の歴史にまつわる因縁や怪現象を解き明かしてきた自らの経験を元に、心霊現象に悩まされる人々を救う一種の探偵としても活動している。あるとき依頼人から深夜の地下墓所に呼び出された彼の前に現れたのは、盲目の富豪マンドールの美しい夫人・ヴィヴィア(ダイアン・ベイカー)であった。彼女の言葉によれば、死んで葬られたはずのマンドールの母親から毎夜電話がかかって来て、夫をおびやかしているという。墓所の内部を調べたオライオンは、すぐにそれが生きた人間の仕業であることを喝破する。だが忘れ物を取りにひとり墓所に戻ったヴィヴィアは、突如現れた不気味な幽霊に襲われた! 幽霊の正体とマンドール家に隠された秘密に挑むオライオン。その謎を解く鍵は意外にも、かつて彼が訪れた異国の小さな村、シェラ・デ・コブレで起きた忌まわしい事件にあった――。

そもそもは「アウターリミッツ」のクリエイターとして知られるジョセフ・ステファーノが、心霊探偵を主役にしたTVシリーズパイロット版として制作するも、試写段階であまりの恐ろしさから放映が見合わせられたといういわくつきの作品。都市の情景に打ち寄せる波が覆いかぶさるスタイリッシュな冒頭から、簡潔な主人公の紹介と謎の提示、そして一旦は霊的存在の関与を否定したところで、早くも問題の幽霊が画面に登場。基本的には古めかしい心霊描写を踏襲しつつ、人間の悲鳴や泣き声をサンプリングした音響効果とともに、「アウターリミッツ」でも使われたネガポジ反転によって不気味に輝く幽霊のグロテスクな顔が画面一杯にアップになるところは、確かに当時としてはかなり衝撃的だったのでは。
その正体に迫ると同時に過去と現在の犯罪を暴くことになる主人公のオライオンは、特別な霊能力などは持たず、あくまで推理と観察を元に事件の謎に迫る正統派の探偵。幽霊を信じない家政婦さんを相談役に事件の概要を整理し、生きている人間の贖罪や救済にも心を砕く魅力的なキャラクターで、これがシリーズ化されなかったのは本当にもったいない。依頼人に告げる「私が報酬を受け取るのは、それが本物の心霊現象だったときだけです」というセリフはきっと毎回の決め台詞だったんだろうなあ。

正直、ここまでちゃんとしたミステリドラマだとは思わなかったので、思わぬところで得をした気分。50分間の上映が終わってみればトラブルもいい思い出で、明日からの日程に備えて早々に宿へと帰ったのでした。

(その2へつづく)


※おまけ・1
ところでこの作品に関しては後日談があって、映画祭の期間中に会場であるシアター21のロビーに並んでいたところ、現在のフィルムの所有者であり今回の上映にも尽力された添野知生氏を偶然お見かけした。しかもその傍らでソファの上に置かれていたのは、CBSのマークが入ったフィルム缶! まぎれもなく「シェラ・デ・コブレの幽霊」のプリントそのもの! やがて添野氏はそのフィルムを大事に梱包して鞄に収めると、文字通り手ずから運んで会場を後にされたのでした……。


※おまけ・2

*1:ちなみに前回はちょうどWindows95の発売日に東京へ行き、秋葉原が大騒ぎになっている様子をホテルのテレビで見ていました

*2:どうやら同じフライトに藤原ヒロシ氏も乗っていたらしいが、全然気づかなかった