Due to my strong personal convictions…

 ぼくが小学校低学年だったころの正月といえば、町にはまだコンビニもゲオもツタヤもなかったし、どんな店だってデパートだって三が日が終わるまでシャッターは閉まったまま、というのが当たり前の話だった。だから元旦の昼間の楽しみは、ときどき家に年始のあいさつにやってくる親戚の人からお年玉をもらうことと、ひたすらテレビで正月番組を見ることくらいしかなかったものだ。
 あれはたぶん3時か4時くらいだったと思うが、家族そろってテレビの前に座っていると、番組と番組のあい間に不思議な映像が流れはじめた。不意に真っ暗な画面に「このフィルムはわたしがオカルトを支持していることを表すものではない」という字幕が浮かび、次に黒人の男の子と女の子が深夜にデートをしている姿が映し出される。と、満月の光を浴びた男の子が苦しみだし、見る見るうちに顔面が変形して狼男へと変身していくではないか!まるで前にTVジョッキーの映画紹介コーナーで見た「ハウリング」か「狼男アメリカン」みたいだ!と思ったら実はそれは映画館で上映されている映画の中の話だった。劇場を後にしたカップルの男のほうが、路上でステップを踏みながら恋人を脅かすように歌いだす。ふたりが墓場の前を通りかかると、今度は土の中からゾンビ軍団登場!そして男のほうも怪物に変身したかと思うと、ゾンビの群れとともに一糸乱れぬ隊列を組んで踊りだした!
 この映像の正体が、当時世界的に大ヒットしていたマイケル・ジャクソンの「スリラー」という曲を宣伝するために作られた短編映画だと知ったのは、それからもう少し後だった(まだプロモーション・ビデオなんて言葉は知らなかった)。監督がジョン・ランディス、特殊メイクがリック・ベイカーの「狼男アメリカン」コンビの手によるものであることは、小学校5年の時に、映画マニアだった当時の担任の家に遊びにいったときに教えてもらった。いまでもなぜ正月の午後に「スリラー」がぽつんと放送されたのかはよくわからないが、我が家の茶の間にあの映像が流れたときの衝撃はよく覚えている。

 今日の朝、「マイケルの遺体がLAの検視官事務所に運び込まれた」という報道を耳にしたとき、いきなり彼が解剖台の上で起き上がり、モルグの死体たちを引き連れて冷たい床の上で歌って踊りだす姿を想像した。が、その夢はついにかなわなかった。

 さようなら。ご冥福をお祈りします。