夜霧よ今夜も有難う

夜霧よ今夜も有難う [DVD]

夜霧よ今夜も有難う [DVD]

 石原裕次郎浅丘ルリ子二谷英明の黄金トリオで、あの「カサブランカ」を、舞台を日本に置き換えて(勝手に)リメイクした日活ムードアクション。
 この映画が作られた1967年にはもう日活という会社自体が末期に差し掛かっていて、裕次郎自身もずいぶん恰幅がよくなってしまっているのですが(しかも殴り合いは相変わらず下手)、微塵も衰えを感じさせない出来栄えです。
 オリジナル版は大戦下のモロッコを舞台にナチスに対する抵抗活動が背景として描かれていたのに対して、こちらではベトナム戦争に揺れる当時の世情を反映して、元船員で横浜のクラブオーナー兼歌手の裕次郎が、東南アジア某国の革命家・二谷英明とその妻でかつての自分の婚約者・浅丘ルリ子を助けるか助けないか悩む、という話にアレンジしています。
 中盤で、彼ら3人が身を潜めた教会で語り合う場面があるのですが、ここで何度もマリア像がインサートされるあたりは、たぶんジョン・ウーの「狼/男たちの挽歌最終章」にかなり影響を与えているような気がします。あちらも男女3人が互いを許しあうお話でしたしね。
 彼らを追い詰める悪役はいつもの二本柳寛・深江章喜らの暴力団ですが、裏ではCIAならぬCIBの諜報員・内田稔とガッチリつながっているというのが妙にリアル。オリジナルでクロード・レインズが演じた警察署長は不良刑事の佐野浅夫裕次郎を助ける老コックには高品格とおなじみの脇役陣が揃う中、主人公を慕うあまりいらんことをして話をややこしくする小娘役が普段なら中原早苗が演じるところを、まだ太田雅子だったころの梶芽衣子だったりするのが確実に時代の変化を感じさせてくれます。
 その他、二谷の片腕を演じる鈴木瑞穂の見事なニセ外国人ぶり(普通にしゃべるだけで吹替風)とか、混血児を演じる郷硏治のパンチパーマに黒塗りというメイクはいくらなんでもないだろうとかいろいろ見どころはありますが、4年ぶりに再会したときの浅丘ルリ子の言葉「朝が1500回…昼が1500回…」を受けた最後の裕次郎の別れのセリフ「ぼくたちは1500回の昼と夜を取り戻したんだ」は、本家「カサブランカ」以上のかっこよさ。
 あと題名に「夜霧」と謳っておきながら、一度も夜霧のシーンがないというのも潔くていいですね。