クリス・ライアン「究極兵器コールド・フュージョン」

究極兵器コールド・フュージョン (ハヤカワ文庫NV)

究極兵器コールド・フュージョン (ハヤカワ文庫NV)

 元SAS隊員クリス・ライアンの小説第11作。ここまでコンスタントに邦訳の出る冒険小説作家は、近年ちょっと珍しいのではないか。
 今回はまたもや独立した作品で、イラク戦争の開戦前夜に行方不明になったひとりの若い女性をめぐり、元SASの彼女の父親と、現役SASで彼女の恋人の2人の男が壮絶な死闘の渦中に投げ込まれる。
 自国の政府の非情さを突き放して描くのは英国冒険/スパイ小説の伝統であり、それはライアンの小説も同様なのだが(なにせ彼は本当に秘密作戦で死にかけた男だ)、本作では特にブレア政権に対する不信感と怒りが物語の根底にある。実際に英軍内部でもイラク戦争と米軍の評判はかなり悪いらしく、そのことは、SAS連隊長だったサー・マイケル・ローズ元将軍がTV番組でブレア首相の罷免を公然と唱えた事実にも窺える。
 その一方でサダム・フセインイラク軍への露骨な憎悪も随所に噴き出し、特に捕虜になることへの恐怖が繰り返し描かれていて、作者自身の体験の苛烈さがここでも覗く。明らかにアンディ・マクナブを思わせる人物が登場するのはご愛嬌。
 しかしこの邦題はひどいネタバレだな。