女番長 野良猫ロック

女番長・野良猫ロック [DVD]

女番長・野良猫ロック [DVD]

 WOWOWが「野良猫ロック」シリーズの全作ハイビジョン一挙放送を敢行。でも2晩に分けてまとめてのオンエアだったので、HDDレコーダーの容量を空けるのに一苦労。
 シリーズ第1作はホリプロ製作で、和田アキ子を大フィーチャーした“女性版・渡り鳥シリーズ”。
 「映画秘宝・悪趣味邦画劇場」で藤木TDC氏は本作の内幕を「過酷で劣悪な撮影環境に辟易した和田アキ子は、これ一作で映画界から遠ざかった」と記しているが、演技が拙いのはともかく、誰よりも男らしいけど女の幸せにも憧れる風来坊を結構楽しげに演じているように見えるし、画面からそれほど険悪な雰囲気は感じられない。あの色々な意味でスケールの大きいキャラクターは、テレビよりもスクリーン映えしたと思うのだが。
 基本的には青春歌謡映画なので当然和田アキ子はソウルフルな熱唱を聴かせ(これは日活アクションの歌うヒーローの伝統を受け継いでいるとも言える)、シリーズ恒例となる歌のゲスト陣もアシッド感たっぷりに歌うモップス鈴木ヒロミツや、赤松愛脱退後のオックス(余談だが和田アキ子は大阪時代、オックスの前座を務めていたそう)、そしてアンドレ・カンドレこと井上陽水は、暴力団ロックアウトされたクラブの店内でおもむろにギターを取り上げて歌いだす。まるで「リオ・ブラボー」のディーン・マーティンのごとく。
 ちょっと気になったのが、右翼暴力団の幹部・睦五郎と、彼の手先となって暴れまわる不良グループのリーダー・藤竜也のやり取り。彼らの間には単なる上下関係を超えた微妙な緊張感が漂っていて、最後までそれが何なのかはっきりしないのだけれども、例えば何らかの血の繋がりがあったり、実は同性愛的な感情が絡んでいるのではないかとさえ妄想させるような雰囲気。
 出番は少ないものの、若者たちの対立という物語の枠の外側に存在する“大人の社会”をたった一人で表現する右翼のボス・中丸忠雄が渋い(インチキ臭いけど)。あのイイ声で「葉隠」なんぞ朗読されたら、純真な青少年なんて簡単に騙されるでしょ。
 すべてが終わって和田アキ子が街を去った後、手を取り合って歩く范文雀と久万里由香の背後には、新宿の変貌を予感させるかのごとく建設中の京王プラザホテルがそびえ立つ。第1作目にして早くも、祭りの終わりを感じさせるラストシーンである。