キング・ボクサー 大逆転

キングボクサー 大逆転 [DVD]

　久々に割腹シーンのないショウ・ブラザーズ映画を見たような気がする。
　広東省国術（中国武術）大会制覇を目指して数々の試練を乗り越える若き主人公。彼をめぐる師範の娘と旅芸人の歌手との三角関係。武術界制覇のためには手段を選ばぬ悪辣な道場主親子と、彼らと手を結ぶ残虐な日本人武術家。主人公に嫉妬するあまり悪党に利用されて身を滅ぼす兄弟子。一度は敵方に付くものの、最後は主人公を助ける流浪の豪傑。これらのキャラクター設定や人物配置に加えて、渡哲也と郷英治のDNAが混じったようなロー・リエの容貌もあってか、なんだか日活の青春アクション映画を見ているような気分になってくる。監督のチェン・チャンホーは韓国出身だが、おそらく相当に日本映画を研究したのではないだろうか。
　スピーディーなカット割に豪快なスタント、荒唐無稽とリアルさのバランスが絶妙なアクションシーンのみならず、わりとセット撮影の印象が強いショウブラ映画にあって珍しいロケ中心の撮影、「キル・ビル」でもおなじみの、主人公の掌が赤く光る度に鳴り響く「鬼警部アイアンサイド」のテーマや、決意を固めて歩き出す主人公の姿に景気のいいドラムソロが被さるあたりの音楽センスも、なかなかのものを感じさせる。
　チャンホー監督はショウブラ内でもひどい差別を受けたらしいが、逆境に負けずに戦うロー・リエの姿に、おそらく自分自身を投影していたのかも知れない。