恐怖のメロディ

 イーストウッド初監督作品にして、彼の映画のモチーフのひとつである“女難”をテーマに据えたサスペンス・スリラー。
 ジェシカ・ウォルター扮するほとんどギャグすれすれの女ストーカー・イヴリンは、ラストネームも過去も説明されない謎のキャラクターで、どうしても「ダーティハリー」の“さそり”を連想させる。一度逮捕されて舞い戻ってくるところやラストシーンもそっくりで、この直後に「ダーティハリー」を撮ることになるイーストウッドドン・シーゲルバーテンダー役で出演し、イーストウッドと息のあった芝居を披露)の念頭には、イヴリンの強烈なキャラクター造形があったのでは…とつい思いたくなってしまう。
 ドキュメンタルなタッチで70年代初頭の雰囲気を濃厚に漂わせるモントレー・ジャズ・フェスティバルのロケ場面、ロバータ・フラックの挿入歌に乗せてドナ・マイルズ(この人もイーストウッド好みの小柄・童顔女優だ)と全裸野外セックスを延々を披露と、処女作にして自分の趣味を随所に取り入れながらも、サスペンス映画としての軸がぶれていないのはさすが。舞台となるカーメル近辺の風景が、ちょっと道東地方を思わせるのも個人的によかった。

 ところで、物語の後半でエドガー・アラン・ポー最後の詩「アナベル・リー」の一節が引用されるのだけれど、改めて読んでみたら単なる謎解きの鍵というだけでなく、映画の幕切れもこの詩の結末から影響されていることにようやく気づいた…。

 wikipedia:アナベル・リー

 DVDの特典にはメイキング・ドキュメンタリーの他に「白い肌の異常な夜」と本作の関連についてイーストウッドが語る映像も収録されており、やはり両方見ないとお話にならない模様。

白い肌の異常な夜 コレクターズ・エディション [DVD]

白い肌の異常な夜 コレクターズ・エディション [DVD]