ザ・スパイダースのゴー・ゴー・向う見ず作戦/ザ・スパイダースの大進撃

 WOWOWのGS映画特集より。2本立て続けに視聴。

ザ・スパイダースのゴーゴー・向う見ず作戦 [DVD]

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 ザ・スパイダース第1回主演映画。監督は「渡り鳥」シリーズのベテラン・斎藤武市。脚本は才賀明と若き日の倉本聰!(主題歌の作詞も)
 ワールドツアーを大成功させて凱旋帰国したザ・スパイダースの7人。ところがいざ銀座にナンパに繰り出しても女の子には全然相手にされず、ションボリしているところに目に入ったのが、テレビの歌合戦で勝ち抜いた水着姿の超キュートな美少女・松原智恵子。インタビューでの「どんな障害も乗り越えて、一直線にわたしの元へ来てくれた男性を恋人にします!」という言葉をすっかり真に受けた7人は、横浜から彼女の住む世田谷区までひたすら一直線に行進を開始。
 実は彼女の発言はいまいち気の弱いボーイフレンド・山内賢へのあてつけだったのに、当の本人はなかなか行動に踏み切れず、そうこうしているうちに不法侵入や器物破損を重ねつつ突き進む7人の若者の奇行に警察やマスコミも騒ぎ始めて…。
 このあらすじだとわかりにくいと思いますが、冒頭で描かれる世界的スターとしてのスパイダースと、劇中で世間を揺るがす大騒動を巻き起こす若者7人組って、同一人物のはずなのにまるっきり別の存在のように扱われています。警察もマスコミを誰も彼らのことをスパイダースって呼ばないし、そのわりに行く先々で思い出したように豪華セットで演奏を始めたりして、ものすごく不思議でシュール。
 汽車に跳ね飛ばされた牛が調理済のステーキになって落下してきたり、巨大な廃墟からレンガを一個外したら建物全体が崩壊するナンセンスギャグがあるかと思えば、刑務所に侵入した7人が執行直前の死刑場へ入り込むブラックユーモアあり、郷硏治がお兄ちゃんそっくりの扮装で登場するパロディあり、内田朝雄扮する大学教授が文化人気取りの俗物として描かれる社会風刺ありで、このあたりは倉本聰の仕事っぽいです。
 最後は一念発起した山内賢にタッチの差で敗れる7人ですが、「ここでやめたんじゃマスコミに“愛のため”とか書かれちまうぜ」「じゃあこのまま進むか」と再び進撃を開始する結末もアナーキー
 ところで山内賢といえば日活青春スターのひとりですが、劇中でバンド仲間として登場する和田浩治らと実際に“日活ヤング&フレッシュ”の名称で音楽活動してたんですね。知りませんでした。
 あと何度も言うようですが、このころの松原智恵子は本当にキュート!上のお姉さん二人とともに地元では有名な美人三姉妹だったとのことで、なんとなく香里奈三姉妹を思い出しますが、実は両者ともに名古屋出身。そのうち引っ越そうかしら…。
  
ザ・スパイダースの大進撃 [DVD]

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第2作は監督が「狂った果実」「月曜日のユカ」の中平康にバトンタッチ!脚本はふたたび登板の倉本聰と伊奈洸(演出家の福田陽一郎のペンネーム)の合作。
 今回は堺正章アメリカから買い求めてきたタンバリンに隠されたダイヤを狙う密輸団と、田辺昭知が空港で取り違えたスーツケースの中身を狙う謎の一味にスパイダースが狙われるという、つまり「HELP!4人はアイドル」方式のストーリー。ただし舞台になるのは東京と九州ですが。
 前作もそうでしたけど、メンバー全員が芸達者で映画映えするクレージーキャッツと違って、スパイダースはマチャアキと井上順のコメディアンぶりが突出するあまり、どうしても他のメンバーの影が薄いんですよね(かまやつひろしもまだ今のキャラが確立していない)。ただ、リーダーの田辺昭知以下「笑いの部分はお前らにまかせるよ」と一歩引いた位置でマチャアキと井上順を見守っているような雰囲気があって、本当に仲のいい兄弟みたいで楽しそうです。なお、マチャアキの父・堺駿二もちょっとだけ登場して「親の顔が見たいネエ」とボヤく楽屋落ちあり。
(ちなみに田辺昭知は後の田辺エージェンシー創設者。この映画のころには既にスパイダースをホリプロから独立させてセルフマネージメントしていたやり手。今で言えばEXILEのHIROのようなもの)
 今回のヒロインはマネージャーの妹でメンバーのマスコット的存在の和泉雅子。もちろんこの人も当時はかわいらしいのですが(横顔がちょっと夏帆さん似)マチャアキらが自分に夢中なのを知ってて高価な買い物をねだったり、時々イヤーな部分が見え隠れします。対照的にダウナーな大人の色気を振りまくのが密輸団の女ボス・真理アンヌ。あっけない最期が実にもったいない。
 中平康監督はこの映画を最後に日活を解雇されてしまうのですが、マチャアキと井上順が同居してるマンションのポップな内装とか、草薙幸二郎の殺し屋がいつも牛乳飲んでたり、ふたつの組織の登場シーンを音楽で区別したり(中東風のシタールとなぜか雅楽)モダーンなセンスは健在。しかし後半は物語が失速して、せっかくのアイディアがうまく生かされていないのが残念。巨大な「オリエント工業」の看板前での演奏シーンとかかっこいいんですけどねえ。
 それと劇中でスパイダースが移動に使う赤白ツートンのベンツのバスがすごくおしゃれなんですけど、中平監督は傑作「危いことなら銭になる」でもドイツ車のメッサーシュミットを登場させてます。あれは監督の趣味なんでしょうか?