グリズリー
70年代にわずか9本の作品を残し、30歳の若さで逝去したウィリアム・ガードラー監督の動物パニック映画2本が、スティングレイから豪華特典つきでDVD化されました。
http://www.allcinema.net/dvd/index.html
2本同時購入するとついてくる冊子「ウィリアム・ガードラー読本」は、詳細なバイオグラフィや全作品解説など資料面で充実しているだけでなく、ガードラーの映画作りにかかわった周囲の人間模様まで活写されていて、読み物としてもなかなか面白いです。
で、まずは76年の監督第7作「グリズリー」を視聴しました。
冒頭、ロバート・O・ラグランドの勇壮な音楽に乗って山岳地帯の上空をヘリが飛ぶオープニングはどう見ても「タワーリング・インフェルノ」。そして始まる本編は、ストーリーから登場人物まで見事に「ジョーズ」そのまんまという、70年代パニック映画ブームの代表的便乗作です。
しかしながら、北海道在住の人間にとっては“海水浴場でサメに喰われる恐怖”よりも、“山で巨大な熊に襲われる恐怖”のほうに圧倒的なリアリティを感じてしまうわけで、劇中で語られる「普通の熊は人間の肉を食べない」「食べ残した獲物は地中に埋めておく」などのセリフにも、ついつい頷いてしまいます。
主役の人食い熊は体長5メートルという凄い設定なのですが、精巧なメカニカル・グリズリーを作る予算はなかったようで、登場するのはどう見ても2メートルそこそこでかわいらしさ満点の実物と、作り物の体の一部だけ。それでも、女子供も容赦なくブチ殺し、馬の首を一撃でもぎ取り、監視塔を押し倒す豪快な暴れっぷりは安いなりにサービス満点(熊さんが監視塔のセットをよいしょよいしょと押す姿はとても愛らしい)。ヘリコプターを破壊するクライマックスは、後に本家の「ジョーズ2」にパクリ返されるという栄誉を担いました。
肝心のガードラー監督の演出は「〜読本」のなかでも指摘されているように、「ジョーズ」の面白さの本質である“自然と人間の戦いを描いた豪快な冒険活劇”の部分まできちんと真似ていて、その点ではとても好感が持てます。特にヘリで熊を追いかけるシーンでは丁寧にも劇伴までジョン・ウィリアムズそっくりで、あの樽を追う名場面の高揚感を再現しようとしているのが微笑ましいです。
俳優陣も、懐かしの「ラット・パトロール」でおなじみクリストファー・ジョージに「特攻大作戦」のリチャード・ジャッケル、「悪魔の調教師」のアンドリュー・プラインなど、これまた安いけれど手堅い演技を見せる面々が揃い、特に山中で襲われて気絶したR・ジャッケルが目覚めてみると「食糧」として地面に生き埋めにされているシーンは、子供ごころに強烈なトラウマを残す名場面でした。
今回のDVDは待望のオリジナルスコープサイズでの収録なのですが、正直なところ、スタンダードサイズにトリミングされた従来の国内盤ビデオのほうがなんとなく画面に迫力があるんですよね。特に熊の迫力不足の部分がうまくごまかされてるというかなんというか…。
結果としてこの映画は「〜読本」によれば制作費75万ドルに対して全世界収益3900万ドルという破格の大ヒットを記録。日本でも76年の洋画年間興行成績第8位という結果を残しています。
ちなみに76年の興行成績一覧はこんな感じ。ぶっちぎり1位の本家「ジョーズ」の50億は凄いなあ。あと「スナッフ」が第10位に入ってるあたり、当時の日本人は(いい意味で)どうかしていたとしか思えません。邦画1位が「犬神家の一族」を抑えて「続・人間革命」というのも…いや、なんでもないです。