子連れ狼 死に風に向う乳母車

子連れ狼 死に風に向う乳母車 [DVD]

子連れ狼 死に風に向う乳母車 [DVD]

 個人的にはこれがベストだと思うシリーズ第3作。この映画の魅力の半分以上は、ゲストとして登場する加藤剛のカッコよさにあると言っても過言ではないです。
 かつては高名な武芸の達人として大藩の要職にありながら、主君を守るために命がけでとった行動が裏目に出て藩を追われ、いまは臨時の雇われ武士として流浪の身。それでもなお真の武士道を追求しつつ、同時に自らの死に場所を探し求める虚無的なキャラクターを演じる加藤剛は、いつもの高潔で生真面目そうな芝居の中にときおり屈折した感情を覗かせ、若山先生のワイルドかつ自然体な拝一刀とみごとな好対照を成しています。
 茶屋で弁当を食べている初登場シーンでは、背筋がピンと伸びた姿に静かな箸使い、身なりはヨレヨレでも気品のある食事姿にこの男の矜持が現れていて、男性でも女性でも姿勢ただしくご飯を食べる人って憧れますよね…。
 もちろん「子連れ狼」世界の住人である以上彼もまた多少狂っていて、酒に酔った三人の仲間が通りがかりの武家の母子を輪姦したと知るや、まず被害者たちを「見ないでくれ」と言いつつ斬殺。返す刀で三人のうちひとりだけを形式上の下手人として斬り、臨時雇いの身とはいえ藩の名誉を守ろうとする非情な面も持ち合わせています(ちなみにひとりだけ斬られてしまうのは若き日の梅津栄)。殺陣のスタイルも若山先生と対照的に、居合道の教科書通りの美しい技を見せ、ここでもちゃんと硬質なキャラクターが反映されているのが素晴らしい。
 映画はこの孤高の武士と拝一刀の出会いと別れが冒頭に描かれ、最後にふたたび対峙したふたりの決闘で幕を閉じる構造になっていて、その間にいつもどおり若山先生の豪快すぎる活躍が鯛焼きのあんこのようにギッシリ詰まったサービスぶり。
 遊郭に売られそうになった娘をかばって恐ろしい“ぶりぶり”の拷問にかけられる有名なエピソードを経て、悪代官・山形勲の暗殺依頼を受けた一刀。代官の用心棒のひとりで二丁拳銃の名手・草野大吾が不気味な容貌に似合わず子ども好きなのを利用して、「片腕カンフー対空とぶギロチン」のジミー・ウォングに匹敵する卑怯戦法でバッサリ!(どのくらい卑怯なのかはぜひ実際に見てビックリしてほしい)もうひとりの用心棒・和崎俊哉は一刀の投げた刀が脳天にグサリ!しかも死体の頭に開いた穴をわざわざアップで見せてくれるサービスショットつき。
 業を煮やした山形勲はとなりの藩にまで応援を頼んで、弓矢隊に鉄砲隊を含めた二百人近い人数で石切場に呼び出した拝親子を包囲!絶対絶命の大ピンチかと思いきや、新兵器・乳母車マシンガンで形勢逆転!押し寄せる手勢に投擲爆弾を投げつけて手足バラバラの大爆発!槍と薙刀をぶんぶん振り回し、馬上の敵をドロップキックで吹き飛ばし、二刀流で斬りまくる鬼神のごとき大暴れの末にあっとおいうまに二百人を皆殺し!最後にひとり残った山形勲を、これまたかなり卑怯な手段で抹殺!
 死屍累々の荒野に立つ一刀の前に、いよいよ加藤剛が現れ、ここからが本当のクライマックス。壮絶な対決の後にふたりの間に交わされる武士道問答、回想シーンでの立ち回りの美しさ、メル・ギブソンも「アポカリプト」で(たぶん)真似した驚愕の主観ショット、そして地面に転がる加藤剛の…と名場面が連発。
 作曲:かまやつひろし、歌:若山先生によるちょっと微妙な感じの主題歌が、それまでの雰囲気をこなごなに吹き飛ばすラストも最高です。