39階段


 ジョン・バカンの同名スパイ小説の三度目の映画化。ヒッチコックによる最初の映画化「三十九夜」があまりにも有名ですが、こちらの1978年版は原作を踏まえつつも、まったく別の物語になっています。監督はハマー映画でおなじみドン・シャープ。
 第一次大戦前夜のロンドン。南アフリカから久々に英国に帰ってきた鉱山技師・ハネイは、同じアパートに住む元諜報部員のスカダーから自分をかくまって欲しいと頼まれる。最初は半信半疑だったハネイだったが、目の前でスカダーが殺害され、その犯人として告発されたあげく、裁判所から謎の男たちに連れ去られてしまう。スカダーの語っていたプロイセンのスパイによる要人暗殺計画が事実と確信したハネイは、隙を見て監禁場所を脱出。警察とスパイに追われつつ、スカダーの残した手帳を求めてひとり逃避行を続ける…。
 スコットランドの田園地帯をひたすら徒歩で逃げ回る主人公を演じたロバート・パウエルが、飄々としてとてもイイです。この人は無表情の中にもどこかおかしさや哀愁が漂う役者で、劇中、麻酔薬のために体が動かせないまま車椅子に乗ってホテルの廊下を爆走するシーンなどに、彼独特の持ち味がよく生かされています。
 彼を追いつめるスパイ団の首領は「オーメン」「わらの犬」のデヴィッド・ワーナー。個性的な役柄の多い人ですが、ここでは表の顔が社交界の大物という設定で見事な英国紳士ぶりを披露。正直こんなにハンサムだったとは知りませんでした。
 スカダー役には名優ジョン・ミルズのほか、婚約者が主人公に惹かれていると知りつつも、彼の危機を救う人のいい青年貴族役で「S.A.S英国特殊部隊」のデンプシー大佐でおなじみマイルズ・アンダーソンが登場。ヒゲがすごくインチキくさいです。
 冒頭でスカダーがスパイ団に狙われる経過が延々と描かれるため、ミルズが登場しても主人公だとわかりにくかったり、後半で明かされる暗殺計画の手段がやや突飛で説明不足などの弱点もありますが、ロンドンの某名所を舞台にロバート・パウエルが大奮闘するクライマックスは、さながら実写版「カリオストロの城」のよう。
 DVDは例によって500円で買ったのですが、ちゃんと高画質のスクイーズマスターでした。