山城新伍「若山富三郎・勝新太郎無頼控 おこりんぼ さびしんぼ」

おこりんぼさびしんぼ (廣済堂文庫)

おこりんぼさびしんぼ (廣済堂文庫)

 死ぬほど面白かったです。復刊を成し遂げた吉田豪氏に感謝。
 あまりに豪快すぎて勝新が常識人に見えるほどの若山先生伝説にはただただ笑うしかないのですが(なにしろ日記の一人称までが“先生”)、一見クールそうな鶴田浩二もやっぱりどうかしていますし、健康マニアでマイペースすぎる高倉健や、ひたすら野球に情熱を燃やす東映の大スターたちなど、みんな浮世離れしたケタ外れの人たちばかり。
 それらの爆笑エピソードにきちんとオチをつけつつ、芸の上ではライバルでもあった若山・勝の兄弟関係や愛すべき人間像、そしてふたりとの出会いから別れまでを生き生きと描く山城新伍の筆致も見事で、「トラ・トラ・トラ!」の黒澤明に対する東映京都の反抗ぶりや、勝プロがゴールデン・ハーベストからブルース・リー作品の配給を依頼されていたなどの貴重な証言も興味深いです。
 それにしてもなぜか他人を惹きつける若山先生の純情ガキ大将ぶりはとても素敵。勝プロと袂を分かった先生を見かねた睦五朗が東宝の「エスパイ」に推薦した、というのもうなずけます(この辺の事情はDVD「惑星大戦争」の睦氏の音声解説を参照。余談ですがこのコメンタリー、映画本編よりずっと面白いです。特に「岸田森、台湾で行方不明事件」の顛末には爆笑)。まあ身近にいたら逃げますけど。
 本書の内容を補佐するかたちの解説文にも“若山先生鬼ゲーマー伝説”などの爆笑エピソードがこれまた満載。機会があればぜひ読んでみていただきたい本です。