華麗なる殺人

華麗なる殺人 [DVD]

華麗なる殺人 [DVD]

 原作はロバート・シェクリイの「七番目の犠牲者」(「人間の手がまだ触れない」所収)。同じ作者の「標的ナンバー10」はこの映画のノヴェライズらしいのですが、どちらも未読。
 人間の暴力衝動をコントロールするために、政府が推奨するライセンス制の殺人ゲーム“ハント”が世界中で行われている近未来、という設定からは「バトル・ロワイヤル」のような殺伐としたディストピア映画を連想しますが、実際のところは60年代オシャレ感覚満載のイタリア製艶笑譚でした。
 ニューヨークの秘密クラブで踊るウルスラ・アンドレスのおっぱい銃が炸裂する冒頭から、ブーツ爆弾に殺し合い禁止のオープンカフェ、殺人ゲームをCMに利用しようとする大企業と、ほとんどモンティ・パイソンみたいな人を食ったノリに、古代の遺跡とモダンな現代建築が同居する奇妙な都市・ローマのロケーション、60年代的近未来感満点の美術や衣装、ピエロ・ピッチョーニのラウンジ・ミュージックが相まって、なんとも奇妙な味の映画となっています。
 マルチェロ・マストロヤンニ演じる主人公(役名はそのまんまマルチェロ。香港映画か)は殺人ゲームを生き残ってきた殺しのプロのくせに、新興宗教を利用して信者から金を巻き上げる一方で、離婚協議中の妻や浪費家の愛人に振り回されてみたり、年老いた両親を妻に占拠された自宅の隠し部屋に住まわせていたり、罠と知りつつウルスラ・アンドレスに魅かれてみたりと、軽妙洒脱でミステリアスな愛すべき中年男を楽しそうに演じる一方、アンドレス以下の女優陣も全員美女ぞろいで、しかもミニスカ・ブーツ・ノーブラあたりまえというサービスぶり!(←大人の女性にも興味があるんですよ、という政治的ジェスチュア)

 ところで劇中、離婚のゴタゴタで一文無しになったマルチェロが差し押えを受け、男たちが家具とともに本棚いっぱいのマンガ本を押収してゆく場面があります。ここで覆面の男が描かれたド派手な表紙が写るのですが、のちのシーンで、マルチェロの弁護士兼情報屋の自室にも同じキャラクターの巨大なパネルが飾られています。
 あれはたぶんイタリアの人気コミックヒーローである怪盗「ディアボリーク」だと思うのですが、この映画から2年後の1967年に「ディアボリーク」はマリオ・バーヴァの手によって映画化され、日本でも「黄金の眼」のタイトルで公開されています(山崎圭司氏による「黄金の眼」レビューはコチラ。見たい!)
 調べると最初のディアボリーク物が書かれたのはこの映画が作られる3年前の1962年。で、劇中でマルチェロと差し押えに訪れた執行官のあいだに「初版本もあるよ」「では価値がありますな」というようなやりとりがあります。
 おそらくこの場面は、マンガ本だって時が経てば価値が出るかもよ、という皮肉だと思うのですが、実際今でもディアボリークはイタリア人に愛されているようで、ちゃんと公式サイトもありました(音楽が鳴るので注意。でもカッコいい!)。 

 最後のオチは「結婚は人生の墓場」ってことだよね?

人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫SF)

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La Decima Vittima

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