きさらぎ無双剣

きさらぎ無双剣 [VHS]

きさらぎ無双剣 [VHS]

 先日の記事ですが、みなさんにブクマしていただいた結果、「最近の注目エントリー」からたくさんのアクセスがありました。
 おかげさまで、はてなダイヤラーのぼくを見る目がずいぶん変わってきたような気がしますよ(性的な意味で)。


 あと、この人については近日中に何らかの法的措置を検討しています。


 さて、(北海道の田舎から見ると)近くて遠い国・日本の政治は相変わらずアレらしいのですが、ひとつ困ったのが国会中継のおかげでNHK-BSの東映時代劇特集と日活青春アクション特集が半分くらいつぶれてしまったこと。
 NHKはよくも悪くも番組編成がフレキシブルなので思いがけない時間に再放送されたりして、この映画も危うく録り逃すところでした。

 江戸の町に騒乱を起こし、それを口実に徳川吉宗を退陣に追い込んで自ら将軍の座に就こうとする尾張大納言一派の陰謀に、大岡越前の元に集った正義の志士たちが立ち向かうというスケールの大きな物語五味康祐の原作は文庫本で上下2巻)をたったの90分にまとめつつ、過不足なく見せ場を盛り込んだ堂々たる娯楽時代劇。出演陣も市川右太衛門御大以下、松方弘樹里見浩太郎若山富三郎高田浩吉東千代之介らの善玉組に、悪役側が山形勲佐々木孝丸とやたら豪華なのだけれど、中でも際立って魅力的なのが、放浪の剣豪・蒲生鉄閑(この名前がすでに素敵)を演じた近衛十四郎
 日本映画界でも一、二を争う殺陣の名手として知られた近衛先生の立ち回りはとにかく豪快かつスピーディ。開巻早々に長い刀をビュンビュン振り回して目にも止まらぬ速さで複数の相手を斬ってしまう姿はひたすらカッコよく、実子・松方弘樹を含めた二枚目組が東映時代劇の約束事に則ってみんな白塗りなのと対照的に、浅黒い容貌にむやみに迫力ある大音声がとてもハードボイルド。痺れます。
 しかもこの強力なキャラクターが、生涯のライバルと勝手に決めた右太衛門御大を斬りたい一心で悪役サイドについてしまうのだから盛り上がらないわけがありません。
 対する右太衛門御大は、闇に乗じて敵の屋敷に忍び込む際にも白頭巾に白装束を欠かさなかったり、近衛先生の執拗な挑発に「この剣を抜くときは天下万民の平安を守るときだ!」と決然と言い放ったり、実は大藩の領主なのにもかかわらず自分の命令で危険な任務に就いた腰元に一途な愛を誓ったりと、東映時代劇ヒーローのセオリーを忠実に守っていて、安心して見ていられます。
 そんなふたりがいよいよ雌雄を決するクライマックスの決闘シーンでは、近衛先生が屋敷の庭の隅にある竹林の中に追い詰められると周囲の竹をバッサバッサと切り倒し(たぶん本当に斬ってる)、剣を振るう空間を作ってから渾身の一撃を繰り出すものの、御大の秘剣“きさらぎ無双剣”の前に額を割られて敗れ去ります。こういう“題名の意味が最後にわかる映画”ってすごく好きです。
 あと前述のとおり、この映画にはもうひとりの日本を代表する殺陣の名人・若山富三郎(多分このころはまだ“先生”じゃなかったと思う)も出演しているので、見る側としては当然近衛先生とのキングコング対ゴジラ級の頂上対決を期待するのですが、残念ながらこのふたりが刀を交える場面はありませんでした。でも立ち回りではヒラリとジャンプしたりと、既にこのころにはトミー独特のアクロバティックな殺陣スタイルが完成していたことがうかがえます。
 
 ところで、既に一部の時代劇ファンサイト等で話題になっていますが、デアゴスティーニから「隔週刊・東映時代劇傑作選DVDセレクション」なる企画がスタートするそうです。現在は宮城県のみの限定発売で、今後は全国でも発売予定とのこと。
 全50巻らしいのでさすがにコンプリートは厳しいと思いますが、内田吐夢の「宮本武蔵」シリーズとか出たらやっぱり買うよね。