グランド・キャニオンの対決

 いよいよ始まったWOWOWドン・シーゲル特集第1弾。この映画が作られるまでの経緯は「映画の國」の桑野仁氏のテキストに詳しい。
 http://eiganokuni.com/feature/2008/06/_1_4text_by.php
 主演は自らも「裸のジャングル」「シャーク・トレジャー」などの冒険アクションを監督したコーネル・ワイルド。“元都会の殺人課刑事だったが、訳あって今はアリゾナ警察の保安官補”という、いかにもシーゲル映画らしいヒーローを演じるには、やや上品過ぎて魅力に欠ける。
 物語も田舎ミステリ風味の前半は、一人称カメラによる殺人シーンなどいい雰囲気だが、そこから真犯人判明に至るまでがやや弱い。やり手の検事が主人公の過去を法廷であげつらう場面も、前述の理由から今ひとつ物足りない。
 しかし実質的な主役は、クレジットでも一枚看板で紹介されるグランド・キャニオンの風景そのもの。冒頭の自動車転落から、巨大な断崖の間をちっぽけな飛行艇が舞うシーンや、クライマックスの危険極まりないスタントアクションは大迫力で、特に急停止して振り子のように揺れるリフトから本物の人間がぶら下がるショットは、見ているこっちが声を上げそうになるほど。
 そのリフトの背後にヘリが飛ぶ姿をフレームインさせるなど、これが初のワイドスクリーンスコープサイズ)演出とは思えない構図作りや(撮影は「俺たちに明日はない」のバーネット・ガフィ)、ともすれば単調になりがちなブルーバック合成を使った俳優の格闘シーンでの、中継タワー通過時の迫力あるカットなど、同じ趣向の「荒鷲の要塞」や「007/ムーンレイカー」と比較しても数段上の出来映えである。できれば劇場の大スクリーンで見てみたい。
 なお、主役を張り損なったジャック・イーラムはグアノ鉱山の作業員役で出演しているが、さすがにこればっかりは映画会社の判断が正しかったような気がする。主人公にもう少しやさぐれた雰囲気が欲しいのは確かなのだが…。